「消防士の昇任試験」で検索すると、出てくるのは試験対策の話ばかりです。
ですが、昇任試験を受けずに昇任が決まる消防本部もあります。
私の所属では、消防士長までの昇任に試験がありません。現役14年目の消防士で、試験を一度も受けずに消防士長になりました。
この記事では、試験がない本部で昇任がどう決まるのか、階級と年数の実際、階級が上がると仕事は何が変わるのか、給料はいくら変わるのか、そして試験がないことの良い面と悪い面を、自分の経験と、試験のある本部の知人から聞いた話をもとに正直に書きます。
これから消防士を目指す人が「試験の有無で受ける本部を選ぶべきか」を考える材料になれば十分です。
📋 この記事を読むと分かること
- 消防の階級は9段階(副士長を置く本部は10段階)。その全体像(公的根拠つき)
- 昇任試験がない消防本部では、何で昇任が決まるのか
- 消防士→消防副士長→消防士長になった実際の年数と、仕事の変化
- 試験がない制度の良い面・悪い面(試験がある本部との比較)
- 階級が上がると給料はどれくらい変わるのか
- 消防士志望者は「試験の有無」で本部を選ぶべきか
まず前提:消防の階級は9段階ある(副士長を置く本部は10段階)
昇任の話をする前に、そもそも消防の階級がどうなっているかを押さえておきます。
消防吏員の階級は、消防組織法にもとづく消防庁の告示(消防吏員の階級の基準・昭和37年消防庁告示第6号)で、消防総監から消防士までの9つと定められています。市町村は必要に応じて「消防士」を「消防副士長」と「消防士」に分けられるので、副士長を置く本部(私の本部もそうです)では10段階になります。上から順にこうです。
| 階級 | 位置づけ |
|---|---|
| 消防総監 | 東京消防庁の消防総監のみが使う階級 |
| 消防司監 | 政令指定都市など、大規模本部の消防長クラス |
| 消防正監 | 大きな本部の消防長・幹部 |
| 消防監 | 幹部 |
| 消防司令長 | 署長クラスなど |
| 消防司令 | 中間管理職 |
| 消防司令補 | 係長クラス・現場指揮 |
| 消防士長 | 現場の小隊長クラス(私の現在の階級) |
| 消防副士長 | 消防士と士長の間 |
| 消防士 | 採用時の階級 |
上位の階級は本部の規模で使える範囲が決まっていて、たとえば消防総監は東京消防庁だけです。
一般の消防士が現場で経験するのは、主に消防士 → 消防副士長 → 消防士長 → 消防司令補あたりまでの昇任です。この記事で扱うのも、そこです。
※出典:総務省消防庁「消防吏員の階級の基準」(昭和37年消防庁告示第6号)、消防組織法
昇任試験が「ない」消防本部もある
ここからが本題です。階級は全国共通ですが、その階級にどう上がるかは本部ごとにまったく違います。
大きく分けると2つです。
| 方式 | 昇任の決まり方 | 特徴 |
|---|---|---|
| 試験方式 | 筆記試験・論文・面接などの昇任試験に合格して昇任 | 大規模な本部に多い。受験資格(年数)を満たしたら試験を受ける |
| 選考方式 | 人事評価と年功で決まる。試験はない | 私の本部はこちら。「受ける」ものがなく、評価で決まる |
採用試験の情報はたくさんありますが、入った後の昇任がどう決まるかは、意外と外から見えません。
私の本部の昇任は「人事評価+年功」で決まる
私の所属では、消防士長までの昇任に試験がありません。
昇任を決めているのは、人事評価制度による評価と、年功(勤続年数)の2つです。
人事評価は年1回
人事評価は年に1回あります。日々の業務に対する所属長の評価で、論文を書くことも、筆記試験を受けることもありません。普段の仕事そのものが評価対象になります。
そこに年功が加わります。一定の年数を勤めていることが、昇任の前提条件になっています。
昇任は「正式な内示」で伝えられる
昇任が決まると、正式な内示という形で伝えられます。試験の合格発表のような瞬間はなく、人事の一環として知らされる形です。
内示を受けたとき、率直に「評価された」という気持ちになりました。
試験に受かった達成感とは少し違います。日々の仕事を見ていてくれた人がいて、その結果として決まった。だから「それに応えよう」と思ったのを覚えています。
私が消防士長になったときも、評価と年数で決まったと考えています。特別な準備をしたわけではなく、2つがそろったタイミングで昇任しました。
私の階級と年数:消防士 → 消防副士長 → 消防士長
実際の年数を書いておきます。
| 階級 | 昇任した年 |
|---|---|
| 消防士 | 採用時 |
| 消防副士長 | 5年目 |
| 消防士長 | 9年目 |
消防士長への昇任は、救急救命士を取得した翌月でした。消防8年目の3月に国家試験に合格し、9年目の4月に昇任しています。
私の本部では、救急救命士を取っても給料は上がりませんでした。ただ、救急救命士の取得は昇任選考で評価されたと感じています。
👉 救急救命士を取ると給料は上がる?|昇給なし・昇任ありのリアル
👉 救急救命士国家試験の勉強法|研修所に入る前に合格レベルまで仕上げた現役消防士が使った教材2冊と1年の手順
階級が上がると、仕事はこう変わった
階級は肩書きの話ではなく、現場でやることが変わる話です。私の場合はこうでした。
消防副士長:機関員をすることが増えた
副士長になって一番変わったのは、機関員(車両を運転し、ポンプなどの機械を操作する役割)を務めることが増えたことです。
消防士のときは隊員として動くことが中心でしたが、副士長になると車両と機械を任される場面が増えます。現場に着くまでの運転、到着後の放水圧の管理など、隊の活動を支える側に回ります。
私の本部は救急・消防・救助を兼任する体制なので、機関員として扱う車両も1種類ではありません。
- 救急車
- ポンプ車
- 救助工作車
この3種類すべてを運転し、機械を扱います。出場の種類によって乗る車両が変わるので、それぞれの車両と装備を一通り扱えることが副士長には求められます。
※なお、「副士長になったら機関員」というのは私の本部の運用です。機関員を何階級から任せるかは消防本部ごとに違うので、一般則ではありません。
消防士長:部下を持ち、指揮者になる
消防士長になると、はっきり立場が変わります。部下がつき、指揮者としての役割を担います。
とくに救急では、小隊長を務めることがほとんどです。現場で判断し、隊員に指示を出し、結果を引き受ける立場になります。
小隊長の仕事を一言でいえば、現場の全ての意思決定を行うことです。「最初に何を判断するか」というより、着いた瞬間から最後まで、判断はすべて自分に来ます。
そして判断したら、部下に命令する。自分で動くのではなく、隊員を動かして結果を出す立場です。消防士のときには経験しなかった重さが、ここにあります。
そしてここは正直に書きますが、事務処理も明らかに増えました。指揮者は現場だけでなく、報告や記録の責任も負います。
つまり副士長は「機械を任される」、士長は「人を任される」。私の実感では、この違いがいちばん大きいです。
試験がないことの、良い面と悪い面
ここは正直に書きます。どちらの制度にも一長一短があります。
✅ 良い面:「筆記ができるだけ」で階級が上がるのを防げる
人事評価で決まるということは、現場での仕事ぶりが見られているということです。
試験方式だと、極端な話、勉強ができれば現場での評価に関係なく昇任できてしまう可能性があります。実際、試験がある本部の知人からは、「勉強ができるだけで昇任してしまうケースがある」という話を聞きました。
その知人の本部では、昇任試験のために2〜3か月ほど勉強するそうです。落ちれば翌年にまた挑戦。試験である以上、勉強期間と再受験のサイクルが昇任の前提になります。
私の本部には、この「勉強期間」がありません。その2〜3か月分、現場の仕事に向き合っているとも言えます。
選考方式では、それが起きにくい。日々の業務がそのまま昇任につながるのは、現場で働く側としては納得感があります。
❌ 悪い面:年功序列なので、能力が低くても上がる可能性がある
一方で、年功が要素に入っている以上、年数を重ねれば能力に関係なく上がっていく面は否定できません。
試験方式なら、少なくとも「試験に通る」というハードルがあります。選考方式にはそれがないので、実力と階級が一致しないケースが出うるのは構造上の弱点です。
つまり、「勉強だけの人が上がる」リスクを取るか、「年数だけの人が上がる」リスクを取るか。どちらの制度も、片方のリスクを抑える代わりに、もう片方を抱えています。
昇任のために、何かしたか?——試験対策のようなことはしていない
正直に言うと、昇任のための試験対策のようなことはしていません。
試験がないので、試験対策という発想がそもそもありません。基本は普段どおり業務を全うすることを続けてきました。年1回の評価も、そのために何かを取り繕うものではなく、日常の仕事が見られているだけです。
結果として評価につながったと思っているのは、救急救命士の取得です。ただ、救急救命士は「昇任のために」取ったわけではありませんでした。自己啓発と、仕事の幅を広げるためです。
一方で、予防技術検定を受けた理由のひとつには、昇任・昇給への期待が少なからずありました。
👉 予防技術検定 3科目1発合格|難易度・種類・メリットと消防士が実践した1科目3ヶ月の勉強法【防火査察・危険物・消防設備】
選考方式の本部で昇任を考えるなら、「昇任のための行動」より「仕事の質」を見られていると思ったほうが、実態に近いです。
その次の階級「消防司令補」は、目指しているか?
消防士長の次は消防司令補です。
目指しているかと聞かれれば、今は考えていません。
理由ははっきりしていて、今は消防士長として小隊長の経験値を積みたいからです。消防士長になって5年ほどたちますが、現場で判断を引き受ける難しさは今も感じています。ここで積み上げないまま次に行っても、上の階級で求められる判断はできないと思っています。
選考方式の本部では、「次を目指して何かをする」より「今の階級の仕事を全うする」が、結果的に次につながります。私の昇任の経緯を振り返っても、そうでした。
階級が上がると、給料はどれくらい変わる?
気になる人が多いと思うので、書ける範囲で書きます。
私の場合、階級が1つ上がったときの給料の差は、月に1,000〜2,000円程度でした。
正直に言えば、金額目当てで昇任を狙う意味はほとんどありません。昇任で変わるのは、給料ではなく責任と役割です。副士長で機械を、士長で人を任される。その重さに対して月1,000〜2,000円ですから、「稼ぐために上がる」制度ではないと思っておいてください。
消防士の給料の全体像は、別記事で年齢別に書いています。
消防士志望者へ:試験の有無で本部を選ぶべきか?
ここまで読んで、「試験がない本部のほうが楽そう」「試験がある本部のほうが公平そう」と思った人もいるかもしれません。
私の答えは、「それは後から考えることで、まず働きたい自治体を優先すべき」です。
昇任制度は、入ってから何年も先の話です。
それよりも、その自治体で働きたいか、その地域を守りたいかのほうが、消防士として長く続けるうえではるかに重要です。
制度の違いは、入ってから分かればいい。入る前に気にする順番ではありません。
よくある質問
Q. 昇任試験がない本部は、どうやって見分ければいいですか?
採用案内には書かれていないことが多いです。説明会や現職の人に直接聞くのが確実です。ただし前述のとおり、入る前に優先すべき判断材料ではありません。
Q. 試験がない本部は、昇任が遅いですか?
一概には言えません。私の場合は副士長が5年目、消防士長が9年目でした。試験方式の本部でも、受験資格の年数や合格率によって早い遅いは変わります。
Q. 資格を取ると昇任に有利ですか?
私の場合、救急救命士の取得が昇任選考で評価されたと考えています。ただし「昇任のために資格を取る」のは順番が逆で、仕事の幅を広げた結果として評価されるものだと思います。
Q. 選考方式だと、上司との相性で決まるのでは?
人事評価が要素である以上、その懸念はゼロではありません。ただ、評価は年1回あり、年功という客観的な要素も入っているので、一人の評価だけで決まる制度ではありません。
Q. 昇任すると給料はどれくらい上がりますか?
私の場合は月1,000〜2,000円程度でした。金額より責任と役割が変わる、と思っておいたほうが実態に近いです。
Q. 消防士長は、現場で何をする階級ですか?
部下を持ち、指揮者になる階級です。私の場合、救急では小隊長を務めることがほとんどです。現場の判断と指示、そして報告や記録の責任を負います。
まとめ:試験の有無より「どこで働きたいか」
- 消防の階級は9段階(副士長を置く本部は10段階)。一般の消防士が経験するのは主に消防士〜消防司令補
- 消防士長までの昇任に試験がない消防本部もある。私の所属もそう
- 試験がない本部では人事評価(年1回)+年功で昇任が決まり、正式な内示で伝えられる
- 私は副士長5年目・消防士長9年目。士長は救急救命士取得の翌月だった
- 副士長は機関員を、士長は部下と指揮を任される。事務処理も増える
- 良い面=勉強だけで上がるのを防げる/悪い面=年功で能力に関係なく上がりうる
- 私の場合、階級が1つ上がって増えた給料は月1,000〜2,000円程度。金額目当てで狙う意味は薄い
これから消防士を目指す人へ。
昇任制度は、入ってから知ればいい。まず「どこで働きたいか」で選んでください。


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